インド市場を見る眼(2019年3月4日)

トピックス:インドとパキスタンの軍事的緊張高まるも、市場の反応は冷静



インド国内メディアは、インドとパキスタンの間で2月中旬に発生した新たな軍事的緊張を連日大きく報じている。その結果、間もなく日程が発表される予定のインド下院総選挙のニュースは片隅に追いやられてしまった。国際社会も両国の動きを注視している。


インドとパキスタンは、カシミール地方の領有権をめぐって長年対立してきた。英国によるインド植民地支配が1947年に終了した際に、インドとパキスタンは分離独立した。両国間の領土対立は、1947年(第1次印パ戦争)、1965年(第2次印パ戦争)、1971年(第3次印パ戦争)に本格的な戦争に発展。1999年にはカシミール地方のカールギル地区に限定した軍事対決も起きている。


今回の軍事的緊張の発端は、2月半ばにカシミールのインド治安部隊が攻撃を受け、40人の死者が出たことであった。両国内でそれぞれの国益死守を求める世論が高まる中、2月27日にインド軍機がパキスタン側に空爆を行い、その報復としてパキスタン軍もインド軍機を撃墜した。境界線付近での地上部隊の衝突はかなり常態化していたが、空爆や空中戦の応酬は1971年戦争以来となる。


現時点では、地政学上のリスクが著しく高まる可能性は低いと見ている。国連と世界の主要大国は核保有国であるインドとパキスタンの双方に自制を強く求めている。軍事的対立のさらなる拡大がないとは言い切れないが、国際社会の圧力と、対立が深まるにつれて両国が負担するコストの増大を考慮すると、双方とも冷静さを取り戻すと見られる。


情勢が依然として流動的なため、今回のパキスタンとの軍事的対立がインドの総選挙に及ぼす影響を予測することは時期尚早だろう。しかし、重要な総選挙を控えて、与野党がパキスタンとの今回の対立を各々の陣営の支持率拡大に利用する可能性は否定できない。


総選挙日程は3月初旬に発表される見通しである。ちなみに憲法は戦争・外国による侵略、あるいは武装反乱の場合に選挙の延期を認めている。

比較的冷静な反応

株式市場の反応は、これまでのところ限定的なものにとどまっている。短期的には、市場はインドとパキスタンの対立に関する日々のニュースに反応して変動するだろう。しかし、その結果として、インド市場が軟化すれば、株式のバリュエーションの魅力向上につながり、投資の好機が訪れると考えられる。但し、これは両国の対立激化が回避されることが前提となる。


インドルピーの対米ドル相場は、パキスタンとの軍事的緊張の高まりを受けた直後は値下がりしたが、両国が緊張緩和への姿勢を示唆した時点で下げ幅の一部を取り戻した。一方、インド債券は国内、海外のいずれの市場においても利回りが僅かながら上昇したが、概ね安定を維持している。


インド金融市場全体への影響は、これまでのところ限定的なものにとどまっている。現在の情勢から判断すると、両国間の緊張がインド経済のファンダメンタルズに打撃を与える可能性は低いと思われる。過去の例では、1998年にインドが核実験を行い、これに反発したパキスタンも核実験に踏み切り、両国の対立は1999年のカールギル紛争へと発展したが、インド経済および株式市場に影響は見られなかった(図表1、2参照)。

1998/99年のインド・パキスタン紛争時はGDP成長率、株式市場ともに堅調を維持
図表1 名目・実質GDP成長率

図表2 株式市場(Nifty指数)

出所:CEIC、HSBCグローバル・アセット・マネジメント(香港)リミテッド

現在のところ、当社の株式及びインド債券の運用戦略に変更はない。しかし、当社は両国の対立が深刻化する兆候がないか注視していく。


インド準備銀行(中央銀行)は、通貨の急激な変動を抑制するとともに、国債の買い入れを含めた流動性の安定確保に引き続き努めると見られる。中央銀行は、インフレが落ち着きを示す中、新たな景気下支えが必要との判断に基づき、近くさらに金融緩和に踏み切る可能性がある。また、パキスタンとの軍事的対立が深刻の度を増せば、インドの財政リスクは悪化する可能性があるものの、その場合でも短期的なリスクは限定的なもにとどまると思われる。


*なお、上記は3月1日執筆時点のコメントです。

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